【報告】詩編に聴く―聖書と典礼の研究 春学期が終わりました(6/24)

4月22日から5回シリーズで始まりました田中裕(聖グレゴリオの家理事、上智大学名誉教授)講師による「詩編に聴く―聖書と典礼の研究」春学期が6月24日で終了しました。

今回初めて聖グレゴリオの家 宗教音楽研究所研究部門主催による全10回の連続講義として開催するに至りました。

この春学期は、初めての試みとして講座をリモートで受講できること、見逃し配信を行うことにしました。そのためか、北海道から九州まで全国から64名が聴講してくださいました。聖グレゴリオの家でのリアルの講義には毎回25名ほどが聴講され、熱心に聞き入っていました。講座の開始が復活祭直後であったことや、フランシスコ教皇の帰天などのタイミングと重なったこともあり、より深く詩編からさまざまなメッセージを聴く機会となりました。

また「詩編に聴く―聖書と典礼の研究」講座は、秋学期にも残りの5回が予定されていますので、引き続きよろしくお願いいたします。

講師の田中裕先生より今回の春学期の所感、そして秋学期への展望について記していただきましたのでご一読ください。


連続講義「詩編に聴くー聖書と典礼の研究」を担当して

聖グレゴリオの家理事 田中 裕

私の連続講義の契機となったのは、「けふよりは詩編百五十 日に一編読みつつゆけば平和来なむか」という南原繁の短歌でした。80年前、内村鑑三の平和主義に大きな影響を受けたこの歌は、東京大空襲のさなかに詠まれたものですが、それはまた、敗戦後の日本が、平和な国として再出発するには何をなすべきか、その理念と祈りを聖書の詩編に求めたものでもありました。

4月22日の第一回講義の前日にフランシスコ教皇が帰天されましたので、教皇の復活祭のメッセージの邦訳を配布して受講者と共に読みました。フランシスコ教皇の回勅「ラウダート・シ」とアッシジのフランシスコの太陽賛歌、そして旧約聖書詩編148との深い関係は、私の連続講義の大切なテーマのひとつです。

第二回目の講義では、新教皇に即位されたレオ14世がシスティナ礼拝堂で挙行されたミサの始めの部分を受講者と共に視聴しました。このミサには、各国の枢機卿など高位の聖職者たちが列席されましたが、彼等がその身分を示す白く高い帽子(ミトラ)を脱いで、ミサの始めの回心の祈り(Confiteor)を献げていたのが印象的でした。

春学期の最後の授業では、教会典礼と福音伝道の精神をよりよく理解するために、ヨハネ・パウロ二世の使徒的書簡、「乙女マリアのロザリオ」をとりあげ、聖母と共にキリストの生涯を黙想するカトリック教会の伝統の意味を再考しました。日本におけるミサ典礼の歴史は、古くはキリシタン時代に遡りますが、当時の霊性の書である「スピリチュアル修行(霊操)」におけるロザリオの祈りとその「神秘(玄義)」の黙想を見ると、聖母や諸聖人に対する崇敬が福音伝道の目的と深く結ばれていたことが分かります。

秋学期の授業では、グレゴリオ聖歌と並んでキリスト教の聖歌の大切な伝統を形成してきた東方正教会の詩編解釈と聖歌朗唱の伝統も取り上げる予定です。ラフマニノフの「晚禱(徹夜祷)」などを手引きとして、シメオン賛歌、聖母(テオトコス)賛歌など、東西の教会に異なる形で伝承された典礼聖歌について考察する予定です。