ご挨拶
聖グレゴリオの家理事長 西脇純
1979年にゲレオン・ゴルドマン神父がこの東久留米の地に蒔いて下さった聖グレゴリオの家の活動は,1994年,神父様のドイツへの帰国に合わせて,神父の良き理解者であり協力者でもいらっしゃった橋本周子先生に引き継がれました。橋本先生は,生涯をかけて,全身全霊を注いで,聖グレゴリオの家のために尽くされ,まさに「一粒の種死なずんば」(ヨハネ12:24)のみ言葉通りに,人生を投げ打って,この家を育ててくださいました。
橋本先生が天に召された今年,「典礼・研究・教育」を活動の3本柱とする聖グレゴリオの家は,折しも45周年を迎えております。わたしたちは橋本先生を失った深い悲しみのなかにあります。と同時に,橋本先生をはじめ,聖グレゴリオの家の運営に直接間接に関わりご奉仕くださった方々,この家のために物心両面にわたり支援してくださったドイツや日本の多くの恩人の皆様のことを思うと,深い畏敬の念にも満たされるのです。この感謝の心は,わたしたち自身を鼓舞し,受けたご恩に報いる道を模索せよと促してくれているような気がいたします。
聖グレゴリオの家の教会音楽科で学ばせていただいた一人として,橋本先生がわたしたち生徒によく聞かせてくださったゲレオン神父の教会音楽についてのお考えを思い起こしております。それは,教会音楽の目的と源(みなもと)についてでした。ゲレオン神父は常々次のように仰っておられたそうです。
教会音楽のまことの目的は,神の栄光と賛美,信徒の聖化にあり,(音楽の)実践の前に,神への礼拝 —祈り— なくしてその真髄に達することは出来ない。日々止むことなく捧げられる礼拝からすべての活動が流れ出る。
そもそもゲレオン神父が聖グレゴリオの家を設立しようとのお考えを持たれたのは,第二バチカン公会議の典礼に関する公文書『典礼憲章』が次のように定めていることに起因するものでした。
音楽に関する教育と実践が,神学校,男女修道会の修練院,修道会神学校において,さらに,他の教育機関とカトリック学校において重要視されなければならない。このような教育を実践するために,教会音楽の教授に携わる教師が注意深く養成されなければならない。そのうえ,適当な場合には,教会音楽に関する高等研究機関を設立することが勧められる。音楽家,聖歌隊員,特に少年聖歌隊員には,真実の典礼教育も施さなければならない。(第115条)
実に聖グレゴリオの家はここに規定された「教会音楽に関する高等研究機関」,また「真実の典礼教育」の担い手として設立されたのでした。聖グレゴリオの家の創立40周年の記念誌のなかで,橋本先生はこの設立理念を継承しなければならないとの思いで,以下のゲレオン神父様のことばを綴っておられます。
教会の宝とされている,教会の伝統あるさまざまな音楽が教会から段々と見放され,教会以外で盛んになっていくのにしたがって教会音楽家の養成,教会音楽の保存,また日本において独特の教会音楽の発展と典礼教育のための研究所の必要性を強く感じ,その設立実現の計画を企てました。
ゲレオン神父が聖グレゴリオの家に期待し,橋本先生も生涯,忠実に守っていらっしゃったこの家の原則を,45周年を迎えたわたしたちも,大切に継承してまいります。と同時に,祈りのうちに神が示してくださるであろう新しい試みにも,進んでチャレンジしてまいりたいと思います。
乗り越えなければならない課題も少なくありませんが,皆様のご指導を仰ぎながら,ご一緒に解決の道を希求してまいる所存です。皆様には引き続きお力添えのほどを何卒よろしくお願い申し上げます。
前理事長・所長の挨拶をそのまま紹介します
ごあいさつ
前聖グレゴリオの家 理事長 宗教音楽研究所 所長
橋本周子(はしもと・ちかこ 教会音楽家)
1937.1.2-2024.3.25
聖グレゴリオの家は,教会音楽の研究,保存,普及を目指して1979年に設立いたしました。以来,大変にゆっくりとした歩みではありますが,祈り,研究,教育の三本の柱を中心として,その目的に向かってさまざまな可能性を試みてまいりました。
キリスト教の典礼と典礼音楽を考えるとき,欠かすことのできないグレゴリオ聖歌をはじめ,キリスト教会が宝としてきた音楽の保存,私たちにとっての賛美の音楽のあり方,特に日本の文化,伝統をふまえたうえでの賛美の可能性を探してまいりました。新しいものを追求し,現代に対応していくためには私たちの持っている伝統文化―しかも地方色にとらわれない―の上に立ってこそ何かを見出せると考えているからです。
「教会音楽の真の目的が,神の栄光と賛美,信者の聖化にあることを思うとき,その実践の前に,永遠の神への礼拝―祈り―なくして,その真髄に達することは出来ないでしょう。日々止むことなく捧げられる礼拝から,すべての活動が流れ出るのです。」
これは聖グレゴリオの家の創立者ゲレオン・ゴルドマン神父の,設立に当たっての言葉です。典礼行為は人間の行いの中でもっとも尊い行為であり,音楽はそこから生まれ,発展してきたものであるということに創立者は徹底しておりました。
以来,ローマ・カトリックの典礼を守りながら,研究,保存,普及,教育にと試行錯誤を重ねて今にいたっております。創立当初から宗教・宗派を超えて多くの方々との関わりの中でその活動を続けていることも,この家の特色と言えるでしょう。芸術は人類共通の財産であり,音楽は人びとの心と霊の言葉であり,糧となるものです。ここに境はありません。ここに調和の営みを見出したいと望んでいます。
現在150名いる教会音楽科の修了者が,それぞれの立場で充実した活動を続けていることは大変に喜ばしいことです。
2005年11月30 日,聖グレゴリオの家は教皇庁の承認を得て,ドイツ国立レーゲンスブルク教会音楽・教育音楽大学と提携しました。この提携により,「教会音楽B」(ドイツ国家資格で,教会音楽における学士の学位)と「教会音楽C」の資格が日本においても取得できるようになりました。
教会音楽家としての資格は,日本の社会において専門職としては成り立ちませんが,その資格を得ることによって教会音楽に対して確信を持ち,教会音楽家としての責任ある務めを果たすことができるようになることを考えております。また学ぶ人にとっては,ドイツ国立レーゲンスブルク教会音楽・教育音楽大学との交流の可能性も生まれ,大きな目標と励みになることと思っております。
祈りと音楽をとおして,聖グレゴリオの家が人びとの安らぎの場となることを願っています。